
ショック・ドクトリン
「大惨事につけ込んで実施される過激な市場原理主義改革」
2007年にカナダのジャーナリストであるナオミ・クライン女史が書いた『The shock Doctrine』にて世界中に知られたショック・ドクトリン。新自由主義の本家アメリカで「新自由主義の醜悪な本質」に鋭く迫った本書が出版され、しかもベストセラーになっているというのは、まさに一つの時代の転機であるといわれております。
「新自由主義とは結局、破壊と衝撃を与えることによって歴史性や公共性を崩壊させ、強引に更地にしてすべてを私物化していく手法だ」とのこと。
●全てはフリードマンから始まった

新自由主義はミルトン・フリードマンから始まりました。
彼は「新自由主義こそが完璧なシステムであり、市場を政府の介入から救い純粋な資本主義へ回帰することによって理想的な社会を実現できる」と考えました。
彼の提唱した新自由主義とは、市場に対する政府の介入を徹底的に排除すること。すなわち政府のあらゆる規制を撤廃し、社会政策の予算を大幅に削減し、税率も最小限かつ貧富の格差に関係なく一律とすることなのです。フリードマンは公共の福祉に関するものもすべて民営化すべきだと説き、政府がもつのは警察と軍隊で十分だといいました。
ショック・ドクトリンに対するフリードマンの考えが良くわかる例が、2005年に起こったハリケーン「カトリーナ」の災害復興に対する提言です。当時93歳のフリードマンは、いわば人生最後の政策提言としてこう述べております。
「ニュー・オーリンズの学校が破壊されたことは悲劇ではあるが、これは教育制度をラディカルに改革する機会である。公共の学校を復興するのでなく、この災害を奇禍として、教育バウチャー制度を導入し、教育の民営化を促すべきだ」。
このフリードマンの提言を受けて、少々頭が弱いブッシュ政権は
「はっ、ノーベル賞経済学者の言うことは良いことや!」となり、学校を民営化するための資金を数千万ドルにわたって投入しました。
以前、政治comで紹介させて頂いた教育バウチャーですが、教育バウチャーの推進によって、当然ながら教育は二極分化され、教育格差による絶望的な所得格差が引き起こされました。
また、ニュー・オーリンズではカトリーナ前に123校あった公立学校はわずが4つになり、7つしかなかった私立学校が31にまで増えました。
こうしてニュー・オーリンズは教育バウチャーによる私立教育機関設置の実験場とされ、まさに「公共」の制度は破壊され「私」の制度に置き替えられていったのであります。
この様に災害を利用した急激な民営化を、クライン女史は
「災害資本主義(Disaster Capitalism)」と名づけました。
この様な教育への市場原理の導入による社会的危機は日本にとって他人事でもなんでもなく、実際に第一次安倍政権において教育バウチャー制度の導入の検討がされており、また日本維新の会の維新八策では教育バウチャー制度の導入が公約として掲げられております。
●新自由主義とは「国家を丸ごと不幸にする悪魔の思想」
フリードマンは
「危機のみが真の変化をもたらす。危機が起きれば、現在ある政策の肩代わりを提案して、政治的に不可能であったことを、政治的に不可避なことにしてしまう」と述べています。
このような発案のもとには、フリードマン自身の経験が影響していると見られます。
70年代の半ば、彼はチリの独裁者ピノチェト政権の顧問をしていました。ピノチェト政権にはフリードマンが教鞭をとるシカゴ大学の経済学者が大量に登用されており、「シカゴ学派の革命」とも呼ばれました。事実、ピノチェト政権においては減税、自由貿易、民営化、社会政策予算の削減、規制緩和が急激に行われたました。 ここから「ショック療法」という概念が新自由主義に入ってきました。独裁政権下において、経済的ショックと同時に武力による弾圧ショックを併用することによって新自由主義改革が進められました。ここから「ショック・ドクトリン」が生まれたのです。
世界各国における多くの新自由主義がこの「ショック・ドクトリン」によって推進されてきました。
たとえば、スリランカにおけるスマトラ沖地震による津波被害の復興では、被災者をパニック状態に落とし込む一方で、海岸線をリゾート化する計画が進められました。同様にニュー・オーリンズでもやはり住民の土地・家屋を修復することもなく、ただ更地にすることだけが進められました。
新自由主義にとって邪魔なのは市場原理主義に反するような非資本主義的行動や集団であります。
そうした非資本主義的集団として、地域共同体や歴史や伝統に根ざした「共同体」や「文化」がありますが、新自由主義はこうした集団を徹底的に除去します。災害復興の名目で公共性、共同体を奪い、被災者が自らを組織して主張を始める前に一気に私有化を進めるのです。
これは、日本で行われた新自由主義改革とも一致しています。
郵政民営化は、公共財産である郵政事業を民営化するという典型的な新自由主義政策であり、民営化後、民営化以前の資料やデータはデリートされました。また、大阪維新の会による急進的な民営化の推進、特に「文化」への助成金のカットは「まさに新自由主義」です。
●「ショック・ドクトリン」の名のもとに
「ショック・ドクトリン」から世界を見ると、世界が今までとは異なる姿で見えてきます。世界では「改革」の名の下で数限りない人権侵害が行われてきたのです。
アジアでは1998年、アメリカによってアジア通貨危機が仕掛けられましたが、この時にIMFが介入し、民営化or国家破綻を迫られた。その結果、日本の経済財政諮問会議のような一部の新自由主義経済学者によって国の政策が支配されるようになりました。
アルゼンチンでは、ホルヘ・ラファエル・ビデラ軍事政権において、「改革」の名の下に、3万人の若者が強制連行、拷問、殺害により行方不明となりました。
1993年のロシアではエリツィン政権下にて、アメリカ人顧問団によって推進されたいわゆる「ショック療法」に伴う混乱の最中、国営企業の民営化によって、「オリガルヒ」という新興財閥が生まれ、政商としての政府との癒着を生みだしました。
1999年のNATOによるベオグラード空爆も、最終的には、旧ユーゴでの民営化に繋がりました。
さらにアフリカでも、ケニア、エチオピアはじめ多くの国がIMFの介入による強制的な市場開放によって、国家破綻寸前まで追いやられております。
アメリカ本国では95年ごろから、新自由主義者が中心になってショックドクトリンの経済政策が本格化しました。

そして、2001年「9・11」のとき、ついに大統領府はシカゴ学派で埋め尽くされました(とにかくここが怪しい!!)。
「テロとの戦い」が叫ばれ、恐怖が煽られ、そして軍隊の民営化、戦争の私有化が行われました。
戦地を含む治安維持関連の民間外注が2003年には3512件、2006年には11万5000件にまで増えた。
まさに戦争はビジネスになったのです。戦争自体が民営化され、市場化されることによって、確実にぼろ儲けする奴らが出てきたのです。
実際イラクでは、表向きは警備会社のPMC(プライベート・ミリタリー・カンパニー)が米正規軍13万人に対して40万人を派遣しており、ハリバートン社は2007年には200億ドルの売り上げをあげ、アメリカ資本のみならずイギリスやカナダ資本も戦争ビジネスで潤っているとのこと。カナダのある会社はプレハブを戦場に売ることで儲け、危険な戦場で働く人のために保険会社が莫大な売り上げをあげているとのことであります!
ですから「9.11」の同時多発テロはアメリカの自作自演ではないかとの見解が、多くの識者の間では未だに根強く残っています(以前、政治comで取材させて頂いた西谷文和氏もそのひとりです)。
このように、新自由主義は人の価値基準がすべて「お金」に統一されることから、新自由主義信仰の下で「災害がないならば災害を起こせばよい、ショックを与えて一気に改革を進め、共同体も歴史性も破壊し、人の命までをも金に換算してしまえ」という危険な思想なのです!!。
●カルト宗教への疑念
しかしながら、こうしたカルト思想に、少しずつ世界は疑問を抱き始めました。
アルゼンチンでは2003年のネストル・キルチネル政権において政府は新自由主義と決別をしました。
フリードマンと縁深きチリのピノチェト大統領ですら、政権後期にはシカゴ学派の言うことを聞かなくなりました。
民営化によって多くの富を海外資本に搾取され、国民の45%が貧困層になったからです。
現在、中南米は明らかに、新自由主義と決別する方向に動いてます。
そして新自由主義の本国アメリカにおいても2008年、決定的な出来事が起こりました。
リーマンショックです。
●新自由主義神話崩壊の足音を立て始めた
2008年リーマンショックでフリードマンの神話が大きく壊れました。フリードマンは
「大恐慌はFRB(アメリカの中央銀行)が適切な金融政策を行えば、二度目の大恐慌に類するものは決して起きない」と言ったものの、
明らかに間違っていました。
2008年から2009年にかけて、FRBは1930年代の世界恐慌時に行うべきであったとフリードマンに言われたことはすべて行いました。しかしながら、アメリカは大恐慌の真っただ中なのです。論より証拠です。
そして、新自由主義経済への反省から、リーマンショック以降、オバマ政権は大胆な財政出動をうちだし、新自由主義と距離を置く政策を取りました。
さらに、オバマ大統領は財政出動による財政の悪化が指摘されている中ではあるものの、2012年の大統領選挙で再選しました。
これはまさに、新自由主義の本国アメリカで、国民が新自由主義に大きな疑問を抱きはじめている証拠であります。
同様にフランスでも新自由主義に距離を置く「大きな政府」を目指すオランドが大統領として当選しました。
●日本への新自由主義の侵略

そして極めつけは「3.11」の東日本大震災の混乱に乗じたアメリカからのTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加要求であります。
TPPは本来行われていたFTA(自由貿易協定)よりもさらに過激な市場経済促進の協定でありあります。
ここまで読んだ読者ならお気づきでしょう。東日本大震災の混乱に乗じたTPPへの参加要求は、まさにショック・ドクトリンなのです!
政治comでは、政治サイトの良心にかけて何度も訴えています。
「国家主導による新自由主義は悪である」と。
何でもかんでも市場原理でやっていいわけがない。
2012年12月の衆議院総選挙。メディアであまり放送されていないのが不思議で仕方がありませんでした。選挙の最大の争点は、間違いなく「新自由主義による侵略行為への戦い」でありました。そしてアメリカ、フランスと同じく、日本でも新自由主義に対して国民はかろうじで「NO」を突きつけたのです。
即ち、大型の財政出動「列島強靭化」がこそが、新自由主義に対する切り札なのであります。今こそ、一人でも多くの国民が、この迫り来る絶望的な危機に対して、正しい認識をもち、決然と立ち向かう必要があるのではないでしょうか。
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